伊集院さん、ぼくは大丈夫なんでしょうか? ドクター非モテの非モテ教室(最終回)

 その結果、十段ぐらいの高さから、バルタンもろともぼくは落ちてしまいました。
 バルタンがぼくをかばってくれたためにぼくは無傷でしたが、バルタンは階段の下の地面に頭から思い切り落ちました。
(中略)
 ぼくはバルタンだった人と一緒に近くの病院に連れて行かれました。お母さんが泣きながらショーの人たちを怒鳴っていました。
 ぼくの隣の小さなベッドみたいなのの上で、頭だけ人間のバルタンが包帯を巻かれて眠っているのを見て、すごく泣いてしまいました。

博士:うぅむ、バルタン星人、立派じゃの。

助手:何なんですか博士、そのコメント。

妹:ところが休み明けの幼稚園でこの件を武勇伝のごとく語るM君に対し、やはり「ぼく」は醒めた目で言うの。

「あの中には人が入ってるんだよ。本物のわけはないでしょ?」

博士:可愛くないのー。

 あれから何度夏が来たのでしょうか。
『ティガ』や『ダイナ』を見る気にはなりません。
 伊集院さん、ぼくは大丈夫なんでしょうか?

1998年7月27日放送分

助手:『ティガ』、『ダイナ』というのはこの当時やっていたウルトラシリーズだね。

妹:そう、「子供の頃、子供らしさに欠けていた」という投書の中に「その当時に放映していた『ウルトラマン』について(見ていない、という内容とは言え)普通に言及があるのが象徴的よね。

博士:どういうことじゃ?

妹:だって、リスナーたちは『ティガ』や『ダイナ』について、解説抜きで通じる、ということだからよ。リスナーたちは「大人びた子供」が「子供時代の宿題」を残したまま大人になった存在だから、子供番組である『ウルトラマン』について詳しいのよ。それはオタク文化がある種の幼児性を残していることとも、パラレルね。

伊集院、アイツ先生にいじめられてんぞ!

博士:言いたいことはわからんでもないが、お前さん方、常にネタがオタク関連ばかりじゃな……。

妹:じゃ、他のネタも挙げてみましょうか? 母子家庭に育ったリスナーからの投書。これも自己認識が秀逸で、まず冒頭で、自分の「可哀想指数」が語られるの。

 母子家庭の子に対する世間の認識は、大抵「可哀相」というもので、恐らく可哀相指数にして70ぐらいに評価してると思います。
 しかし、3歳で父親を亡くしたかなりの筋金入りの母子家庭の子であるぼく自身は、5から10ぐらいと実感しています。

妹:そして話は小学校三年生の父の日に起きた事件へと移っていくわ。
「お父さんへの感謝の気持ちを作文用紙三枚に書いてください」。そんな宿題を出したのは新米の女性教師、宮崎先生。女子にも男子にも大人気の、品のいいお嬢さん風の美人。

 こんな時、ぼくは決まって皆の前で手を挙げてこう言い続けてきました。そしてこの日も。
「先生、お父さんの死んだ人はどうするんですか?」
「いない人」と言わず、「死んだ人」とどぎつい表現を使っていた理由は、ぼくに多少なりとも嫌な思いをさせた担任への、ささやかな復讐心があったかも知れません。

妹:ショックを受けた宮崎先生に、「ぼく」は次第に大人が困っていることへの妙な楽しさが沸いてきた。更に傷ついた演技を続ける「ぼく」に先生は混乱。やり過ぎに気づき、先生に謝ろうとした瞬間、加藤や清原といった友人たちが早まった狭義心から次々に言い出すの。

「先生、ぼくの父親は離婚していないけど、どうしたらいいんですか?」
「先生、ぼくの親父はガンであと一ヶ月で死ぬんですけど、どうしたらいいんですか?」
 ぼくは思いました。
 これ以上先生をなぶり続けて彼女が学校に来なくなったら、俺が一番悪い人になっちゃうよ。
 ……ったく、これが70と5のギャップってヤツだよ。

妹:ここで「ぼく」は既に被害者ぶって相手を攻撃することの卑劣さに気づいているけれども、友人たちはそれに乗っかって止まらなくなっちゃっているのね。そして見兼ねた女子がその見え透いたウソを糾弾、クラスは男女に分かれての大ゲンカに。

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