官邸前DISCO化計画!? ―問題点はどこだろう

「楽しいから参加する」という新しい社会運動

 皆さんは「新しい社会運動」(new social movements)という言葉をご存知でしょうか。
 これはフランスの社会学者アラン・トゥレーヌらによって提起された概念で、階級闘争史観に基づく旧来の労働運動とは異なる、反核運動や女性解放運動、環境保護運動などを指します。
 この「新しい社会運動」の特筆すべき点として、「楽しいから運動に参加する」という態度が肯定されたことが挙げられます。

 これについては説明が必要でしょう。
 例えば、先進国と途上国との格差の問題である、南北問題。たしかにアフリカの人々は飢えに苦しんでいます。しかし、こう言うのもナンですが、我々日本人にとっては切実な問題ではありません。日本から何千キロも離れたアフリカでの飢餓というのは、しょせん「他人事」にすぎないからです。

 環境問題にも同じことが言えます。地球温暖化によって大規模な気候変動が引き起こされれば我々の子孫は困るだろう。だが困るのはあくまで我々の「子孫」です。我々自身はいわば「逃げ切り」ができる世代なのだから、環境問題なんてべつにどーでもいいじゃないか、と主張することだって―道義的な問題はあるにせよ―可能なのです。

 自分にとっては切実ではない南北問題や環境問題に、コミットすべき理由はあるのか。また、上に挙げた二つの問題などを知っていても、「自分にはあそこに行ったって建設的な意見なんていうことは出来ないじゃないか。」「自分一人が加わったところで改善出来ることじゃない」「どうせ周りに変な目で見られるのがオチだ」そんな心情も既存の運動に参加出来ないどう気になるのではないかと思います。

 そこで出てくるのが「楽しいから運動に参加する」という発想です。
 たしかに自分にとっては切実な問題ではない。だが運動それ自体が楽しいから運動する。仲間と出会えるから運動する。運動する自分が好きだから運動する。―それでいいというのが「新しい社会運動」の考え方なのです。

 こうして「楽しいから運動に参加する」という態度が肯定されるようになりました。今回の「官邸前DISCO化計画」も、そのような発想に基づいて催されたものだということがお分かりいただけるかと思います。

→ 次ページ「「官邸DISCO化計画」の本当の問題点は?」を読む

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西部邁

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