松下幸之助、出光佐三から学ぶデフレ不況の乗り越え方
- 2014/6/17
- 社会
- 松下幸之助, 経営者
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日本は、1997年のデフレ突入以降15年以上続く長いデフレ不況によって、企業は疲弊し、従業員の給料は上がらず、企業も従業員も共に苦しむことになりまた。
しかし、一方で、このような時代に台頭してきた企業もあります。ワタミやユニクロあるいは吉野家といった低価格で勝負し、従業員を徹底的に安い賃金でこき使ういわゆるブラック企業と呼ばれるような企業や、企業にとっては福利厚生を考慮せず安い賃金で雇える人を派遣する人材派遣会社などです。
経営とは末端の従事者の人生を吸い取っていくことなのか
派遣会社などは、派遣労働法の改正等別の政治的な要因もあるのですが、これらの企業は、一般にデフレ期における低価格競争の勝者であると言えるでしょう。つまり、労働者の賃金が下がり、雇用が不安定になりがちなデフレ不況期において、これらの企業の経営者は、如何に従業員の給料や雇用の安定性を確保しようかという問題をまったく考えずに、むしろ逆にさらなる賃金の引き下げを仕掛けることによって成功したわけです。いわゆる合成の誤謬という問題を考えるなら、このような大企業が大胆な賃金の引き下げを行うこと自体が迷惑であるのですが、さらに厄介な問題は、彼らがデカい顔をして、TVやビジネス雑誌のインタビューに答えたり、政府の諮問機関のメンバーに入ったり、あるいは国会議員になったりして、さらに、経営者が従業員の賃金の引き下げをしやすくしたり、状況に応じて簡単にクビにできるように制度改革を行うよう提言していることでしょう。パソナの竹中平蔵や、ワタミの渡邉美樹などは、まさにその典型であります。
彼らは、経済学的な観点や、あるいは道義的観点からは、容易に批判しうる対象ではあるのですが、一方で彼らはまさにデフレ不況という時代の流れに的確対処することに成功したとも言えます。労使協調で経済成長の果実を国民皆で享受することの出来た幸せな時代が過ぎ去ってしまった現在、彼らデフレ時代に成功した経営者の功罪というものは、必ずしも「彼らは成功したから偉い!!」というような短絡的な見方のみではなく、様々な観点から総合的に判断するべきでしょう。ネット上で起こっているワタミ批判、ユニクロ批判などはその一例であると思います。
彼らのような経営者ばかりであれば暗澹たる気分にならざるを得ませんが、日本の過去の経営者を見てみると、大不況や経営的危機に陥っても徹底的に従業員の雇用や待遇を守り抜こうとした経営者もやはり存在します。
日本の歴史に輝く大経営者は何を見ていたか
小説『海賊と呼ばれた男』の主人公のモデルである出光興産 創業者・出光佐三は日本の敗戦後、資産を全て失い、膨大な借金を残して事業も壊滅した状態で、外地からの復員者800名を受け入れましたが、その敗戦の1ヶ月後に「海外から引き揚げてくる社員は一人もクビにしない!」という宣言をしました。果たして、なぜ、これほどの苦境において、出光はこのような決断を下したのでしょうか?それについては、出光自身の次のような言葉が残っています。
「社員は家族だ。家計が苦しいからと家族を追い出すようなことができるか。会社を支えるのは人だ。これが唯一の資本であり今後の事業を作る。人を大切にせずして何をしようというのか。」
また、こんなエピソードもあります。復員後、気力を失い、郷里に引きこもっていた青年が、出光に辞職の手紙を書こうとした時のことです。その時、彼の父は烈火のごとく彼を叱りました。「お前が兵隊に行っている6年間、出光さんは給料を送り続けてくれた。それが辞めるとは何ごとだ。すぐ、出光さんにお礼の奉公をしろ。6年間ただで働いて、それから帰ってこい」。この言葉を聞いて青年は思い直したといいます。
また、松下電器の松下幸之助は、松下電器の第2の発展期を迎え社員が500人になったころに大恐慌のあおりを受け、倉庫に一杯の在庫を抱えることになりました。その時、創業以来の危機に幹部が次のように進言します。
「この危機を乗り切るためには、従業員を半減するしかありません」
しかし、病床にいた松下幸之助はこれに反対します。
「松下が今日終わるのであれば、従業員を解雇してもいい。しかし、そうでないなら雇用は守る。そうでなければ働く者が不安を覚えて、これからもっと会社を大きくしていくことなどできない」
このように述べ、さらに次のような指示を出します。
「直ちに工場は半日勤務にして生産を半減せよ。しかし従業員の給料は全額を支給する。そのかわり休日返上、全員で在庫を売り切れ!」
このような、松下や出光の姿勢や発言を見てみると、現代の経営者とはまったく違った視点から経営を捉えているということが明確に理解できるのではないでしょうか?つまり、現代の経営者は金と数字と経営理論やマニュアルを見ていますが、過去の偉大な経営者たちは明らかに、人間や社会を見て経営を行っています。特に、松下幸之助の先の指示は興味深いものです。「生産を半減して、給料は全額補償する」これは、つまり経済学的な観点から捉えるなら、「需要不足のデフレ不況期に、供給を減らして、需要は減らさない」ということであり、実に合理的な判断なのです。もちろん、当時の松下幸之助がケインズ理論を知っていたはずがありません。ということは、理論を知らなくても、自分の目と感性で人間や社会を観察した結果、直感的に正しい判断を下したということではないでしょうか?
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2コメント
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「生産を半減して、給料は全額補償する」ことでデフレ脱却を目指す、というのは本末転倒な上に愚策ですね。
生産力が遊休しないようにすることで生活水準を高める、そのため生産力に見合うまで需要を高めるためのデフレ脱却であるのに、生産力をわざと遊休させてしまったら、デフレ脱却が出来ても生活水準は高まらない。
しかも、「生産を半減して、給料は全額補償する」では、今すでに雇われている人はいいが、仕事がない人は救われない。企業にとっては社員でない人まで面倒が見れないし、社員が半分休業しているところで失業者を雇おうとはしない。安い賃金でも雇われたい彼ら失業者が人余りを作り出し、賃金はずっと下落圧力が掛かり続ける。給料の補償が強制されていて下がらなくても、上がることはない。「生産を半減して、給料は全額補償する」によって商品の価格は上がっているのに賃金は上がらないことになる。
その結果、デフレ脱却も一時的なもので終わる。「生産を半減して、給料は全額補償する」で引き起こせるのは、継続的な物価上昇であるインフレではなく、一時的な物価の跳ね上がりだが、その後は減らない失業者、上がらない賃金によって、デフレの再来となる。
デフレ脱却をするには、まず人余りをなくすこと。それは経営者には解決の難しい問題。松下幸之助ばかりの世の中になって「社員」を守っても無理。社員になれていない人を雇って社員にしやすい環境を作り出す必要があるが、これは経営者の善意でどうこうなるものではない。
>「直ちに工場は半日勤務にして生産を半減せよ。しかし従業員の給料は全額を支給する。そのかわり休日返上、全員で在庫を売り切れ!」
生産部門の人を半減させて販売部門に移し販売を強化し、さらに休日返上までさせて在庫をどんどんと市場に流し込むようにすれば、市場での財の余剰が増えてしまってデフレが深まります。
生産部門ではないですが、全員が休日返上で販売部門で働くわけなので給料は全額支給されるのが当然です。むしろ休日出勤手当てがないとすれば、販売不振の影響を直接に従業員に背負わせるブラックな対応です。
松下はどうなんでしょうかね?
松下政経塾自身、松下当人が所得税の累進課税がきつすぎる、という事で発足させた一面もありますし
実際にこの人の基で経済学者が考え「日本再編計画、無税国家への道」というタイトルで本を出しています
実はこれ、小沢が当時指向していた構造改革の種本と有力視できるぐらいそっくりな本なんですよ
当時公共事業と金融のバランスがそんなに悪くなく、しかも会社員が絶望的に足りないと言うことで入れてしまえ、という風潮の基で
植木等がドント節を歌えるぐらい兎に角景気が良かった頃です
(今はハケンの品格w)
この状況だと、ちょっと凹んだぐらいで社員を削るって馬鹿のやることなんですよ
おそらく他の会社も割合同じようにしていたと思われます
今当人が存命しておりませんし、松下当人も確か最初の数回出たっきりで、松下政経塾と呼べるぐらい本人の意思と一致した組織である、とは思えませんが
なんかなーと思ってコメント書きました