プログラミング必修化が招く日本の地盤沈下

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読売新聞の社説のレベル

 小学校の授業で、野球を必修化すれば誰でもイチローになれる。サッカーなら本田圭佑に、相撲なら白鵬。将棋なら羽生善治で、乗馬なら武豊に・・・それが可能と考えているかの文部科学省。小学校において2020年度から「プログラミング必修化」がスタートします。

 読売新聞は2016年5月17日の社説を

“プログラミング 必修化を創造力育てる一助に”

 と掲げ、「子供たちが早い時期からプログラミングになじむことで、IT分野で世界的に活躍する人材の輩出も期待できるのではないか」と語りますが、創造をかたちにする技術の1つがプログラミングであって、プログラミングを学んだから創造力が生まれるのではありません。

 私は都立普通科高校卒業ながら、叩き上げの元職業プログラマー。いまでもプログラミングしており、小学5年生で出会った「BASIC」から数えれば経験は30年を超えます。だから断言します。プログラミング必修化は国力の低下を招きます。

プログラミングとは何か

 コンピュータにおける作業手順や命令書といった中身がプログラム、書き記す作業をプログラミングと呼びます。プログラミング必修化の最大の問題点は、プログラミングにはある種の才能が不可欠ということが一切語られていないことです。

 プログラミングとは、プログラミング言語毎の「文法」に則った「作文」です。プログラムは全て日本語に翻訳でき、自然言語に置き換えられないプログラミング言語は呪いのたぐいのオカルトです。

 日本の公立学校では読書感想文、卒業文集など「作文」は必修ですが、誰もが小説を書けるようにはならず、営業日報程度の作文でさえ苦手とする人が少なくありません。運動センスの違いが明らに現れる「逆上がり」や「跳び箱」のようなもので、作文やプログラミングには得手不得手があるのです。そして体育や、作文を含む国語の授業では、他のカリキュラムで埋め合わせも可能ですが、必修により教科化された「プログラミング」に逃げ道はありません。悪い成績が児童の自信を奪い、教科への苦手意識を植え付けることは、分数や英語の授業が証明していることです。

東ロボくんの嘆き

 プログラミングは「作文」。本当に国民に「プログラミング」を身につけさせたいのであれば、今以上に「国語」の授業に力を注ぐべきなのです。別の角度からまったく同じ指摘をするのが、東大合格を目指す人工知能「東ロボくん」プロジェクトの陣頭指揮を執る国立情報学研究所の新井紀子博士。2016年5月25日の読売新聞の取材にこう答えています。

“英語教育の充実やプログラミング教育の導入を言うならば、まず日本語を何とかするべきです。(略)プログラムに求められる機能を記した仕様書が読めなければしょうがないですよね”

 新井博士は、人工知能開発の過程で、中高生の読解力低下を発見します。知識がなくとも、読解力だけで解ける、括弧を埋める四択問題の正答率が、入試を経験した公立高校生でも3割だったのです。

教育行政は失敗ばかり

 その問題がこちら。

《【問い】アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。セルロースは(  )と形が違う。A:デンプン、B:アミラーゼ、C:グルコース、D:酵素

(出典:東京書籍・高校生物基礎教科書『新編・生物基礎』、読売新聞より孫引き)》

 正解はデンプンですが、公立高校生の57%が「アミラーゼ」、公立中学生の53%は「グルコース」と誤答。いまどきの中高生の読解力が、そこまで低下しているならプログラミング教育以前の教育行政の失敗です。教育行政の失敗は「ゆとり教育」が有名ですが、平成15年度(2003年)から「情報」と題したパソコン関連の授業が「必修」となっています。ところが、年々、パソコンが使えない新社会人が増えており、ここでも教育行政の失敗を確認できます。

→ 次ページ「プログラミングの宿命的構造」を読む

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西部邁

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