『金閣寺』から見る三島由紀夫の美の追求

三島由紀夫の代表作『金閣寺』

 『金閣寺』は、1950年におきた金閣寺放火事件を下敷きにしたフィクションです。三島の最も成功した代表作というだけでなく、近代日本文学を代表する傑作の一つと見なされ、海外でも評価が高い作品でもあります。

 主人公の経験する短く多彩なエピソードが展開しながら、それぞれが思考的、時間的、美的に掘り下げられ、飾られています。そしてそれが一つの結末に向かって連なって行き、最後の金閣寺放火というラストシーンへと導かれます。

理想の美と現実とのギャップ

 主人公は吃音に悩む若い僧なのですが、彼は幼少期から地方住職の父親に「金閣寺ほど美しいものは地上にはない」と教えられて育ちます。少年は、父親から金閣寺の美しさを聞かされるたびに、金閣寺の美しさを夢想します。地方の坊主として生まれた主人公は、一度も実物の金閣寺を見ることなく成長していきますが、金閣寺を夢想しながら彼の中に理想化された究極の美を備えた金閣寺のイメージを作り上げていきます。

 そんなある日、主人公は父親に連れられて、京都の実物の金閣寺をその目で見ることになります。しかし、ずっと憧れ続けてきた金閣を初めて見た時、自分の思い描いていた理想の金閣寺とのギャップに愕然とします。
「美とは、こんなにも美しくないものなのか」
そう思いながらも、こっちが本当の金閣寺なのかと自分を納得させます。

 自分の心の中にある理想の金閣寺と、現実にあるどうみてもつまらない金閣寺とのギャップに違和感を覚えながら、主人公の少年は「美とは何か」という思索を始めることになります。

→ 次ページ「いつもの金閣寺が、急に輝き出す瞬間」を読む

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西部邁

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コメント

    • アンチ高木
    • 2014年 12月 29日

    経済だけ論じてればいいのに、もう文化人気取りかよ

  1. 太田光の金閣寺論のパクリかな?

  1. この記事へのトラックバックはありません。

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