第7回 フジサンケイグループ報道機関の情報操作を暴露する

新聞やテレビで既成事実を作り、言論人を押さえ込もうという魂胆なのか!?

二回目は、昨年2013年のことだ。
筆者はフジテレビの「新報道2001」という番組からTPPに関して録画取材したいという依頼を受け、2月15日にお台場のフジテレビ本社を訪れ、インタビューを収録された。
当時は安倍総理が訪米を翌週に控え、オバマ大統領との初の首脳会談で、TPP交渉への参加を表明するのではないかという観測が流れていた(安倍総理は訪米後の3月15日にTPP交渉参加を表明した)。
筆者は2011年4月に『国家の存亡 “平成の開国”が日本を亡ぼす』(PHP新書)を出版して以来二年間、ことあるごとにTPPを徹底批判してきていたので、当然、反対派としてコメントを求められたのだと思って、いろいろな資料も持参し、農業、医療、金融・保険、投資(ISDS条項)などTPPの具体的分野の問題点について持論を述べた。さらに、フジテレビのディレクターの質問にうながされるままに、日米構造協議や年次改革要望書など日米関係の歴史についても詳しく説明した。
収録は結局一時間以上に及んだが、三日後の2月17日に放送された番組を見て仰天した。

私の発言はたった数秒しか流されなかった。

しかもそれは、

「日本は国防という国家の根幹をアメリカに依存しているわけですね。日本はアメリカの軍事力に頼らざるを得ない」

という部分だったのだ。日本語でしゃべっているのに、派手な字幕スーパーまでつけられて発言が強調されている
これはどういう文脈で出てきた発言かというと、「なぜ、日本政府はアメリカの要求を拒否できないのでしょうか?」というディレクターの質問に対して、筆者が

(1)日本は国防という国家の根幹をアメリカに依存しているわけですね。現状では、(2)日本はアメリカの軍事力に頼らざるを得ない。そういう状態のままでは、日本はアメリカの要求を拒否できません。(3)自主憲法を制定し、国防軍を創設し、自分の国は自分で守るという当たり前の国になって、初めてアメリカにノーと言えるわけです

と答えた部分を編集したものなのだ。
もちろん、筆者の論旨の重点は「(3)自主憲法を制定し、国防軍を創設し、自分の国は自分で守るという当たり前の国になって、初めてアメリカにNoと言えるわけです」という後半部分にあるのだが、フジテレビはそれをカットし、前半部分【(1)+(2)】だけを使ったのだ。放送された部分だけを聞くと、あたかも筆者が「日本はアメリカに守ってもらっているのだから、TPP交渉に参加するのもやむをえない」と、情けないコメントをしているようにしか聞こえない
2004年に『拒否できない日本』(文春新書)を出版して以来、「反米」のレッテルを貼られ、TPP反対の急先鋒の一人として知る人ぞ知るノンフィクション作家の関岡でさえもう白旗をあげているのだから、安倍総理が訪米してTPP交渉に参加を表明するのは当然だという流れを作る情報操作のネタにされてしまったのだ。

事実、番組を見た自民党の衆議院議員から「あなたは変節したのか」と問いつめられ、筆者は釈明に追われるはめになったが、全国放送で流されてしまったものは取り返しがつかない。

テレビ局員のあざとい手練手管にまんまと引っ掛かってしまった筆者は、脇が甘いと嗤われても不明を恥じるほかはない。
こうして二度にわたり、筆者は産経新聞とフジテレビに煮え湯を飲まされてきたが、これまでそれを公表したことは無かった。正直言って、大メディアを敵にまわして仕事を失う恐怖感があったことは否めない。それゆえに産経新聞は今回も、

「どうせ関岡はまた黙って引き下がるに違いない、巨大メディアの威光と権力の前では、たかが一言論人など自分たちの意のままだ」

と高を括ったのだろう。

しかし、7月8日の産経新聞の「移民問題トークライブ」に関する歪曲報道を見るに及んで、さすがに筆者も吹っ切れた。これはあまりにも酷過ぎる。論点をすり替え、本質的な問題から目をそらし、貴重な機会であった「トークライブ」の意義を貶め、参加した聴衆や、産経新聞の読者を欺くものだ。偏向した報道で、筆者の信用を毀損した。ジャーナリストという以前に、人として、やっていいことの臨界を超えている。ここまで愚弄されれば、窮鼠も猫を噛むしかない

報道からまる一日が経ったが、産経新聞からは筆者の質問状(前回記事参照)に対する回答がない。またしても『正論』編集部が板挟みとなって苦しんでいる。それは筆者の本意ではない。

あの記事を執筆した記者は、名前を明かさず、自ら直接、筆者とコンタクトをとろうともしない。間接話法なのでよくわからないが、どうやら『正論』編集部に責任を押しつけて逃げ切るつもりのようだ。

7月8日の記事を執筆した産経新聞の記者氏よ。貴殿もジャーナリストなら、自分が報道したことに責任を持て。自ら名前を名乗り出よ。信念を以てあの記事を書いたのなら、自らの口でその信念を語れ。(続く)

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西部邁

関岡英之

関岡英之評論家・ノンフィクション作家

投稿者プロフィール

昭和36年6月、東京生まれ。
昭和59年3月、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。
 同 年4月、 東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行、約14年間勤務後、退職。
平成13年3月、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、著述活動に入る。

主な著書:田母神俊雄氏と共著『日本は「戦後」を脱却できるか 真の自主独立のために』祥伝社 平成26年
     三橋貴明氏と共著『検証・アベノミクスとTPP 安倍政権は「強い日本」を取り戻せるか』廣済堂出版  平成25年
     中野剛志氏編『TPP黒い条約』 集英社新書       平成25年
     『国家の存亡 「平成の開国」が日本を亡ぼす』PHP新書       平成23年
     『中国を拒否できない日本』     ちくま新書       平成23年
     『帝国陸軍見果てぬ「防共回廊」』祥伝社         平成22年
     『奪われる日本』         講談社現代新書     平成18年
     『拒否できない日本』       文春新書        平成16年
     『なんじ自身のために泣け』(第7回「蓮如賞」受賞)河出書房  平成14年

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コメント

  1. 残念ながら、産経新聞からの回答はまだ来ていないとのこと。

    問題の記事を書いた記者個人には、信念などという高尚なものは存在しないでしょう。
    あるとすれば、保身とか欲望とかいったものでしかないでしょう。

    ここで明確にしておきたいことは、
    この件で産経新聞の程度が知れるということですね。

    現在、慰安婦報道などで産経新聞は朝日新聞を非難しています。
    その心根がどのようなものであるのか、この件での対応で分かってしまうということです。

    この件で筋を通した回答がくれば、そこには誠実さが含まれている可能性が残ります。
    しかし、逃げたり誤魔化したりすれば、
    所詮は金儲けの手段として朝日批判しているだけだと判断されることになるでしょう。

    この件では、産経新聞の報道姿勢そのものが問われることになるのです。

    • 旅丘
    • 2014年 7月 10日

    産経新聞は全国紙の中で唯一マトモだと思っていただけに、今回の件は失望させられました。

    決して黙っていていい問題ではないと思うので、微力にすらならないかも知れませんが応援しています。

    三橋貴明氏は今日のブログで、「先日の移民問題シンポジウムの産経報道の問題は、明後日、取り上げます。」と発表しました。
    心強い味方として期待できそうですね。

    • 久しぶりの通りすがり
    • 2014年 7月 11日

    「反米」として知られた関岡先生がそういうなら仕方ない。TPP参加は避けられない。
    長いインタビューは、始めからこのような論調を作り上げるための、ネタ集め、コメント収集だったのだと思います。
    メディアって元々そういうもんでしょ。大衆を扇動、動員してある政治目的を実現するのがメディアの役割で、フジサンケイはそういう発注主の命令に忠実に業務を実行したまで。フジサンケイは統一教会CIA系だってことは昔から巷でよく言われてます。
    そういうことは、もう既知であるとして、肝は、フジサンケイがそのような報道をする狙いは何か、フジサンケイは統一CIAとどのような共益関係があるのか、それらを形成するエビデンスや合理的推論の方が、むしろ大事で発展的なような気がします。

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