ホンダを世界企業に育てたヒューマニズムとロマンチシズム

藤沢さんの独創的なマネジメント

企業が中核企業になるには、2つの要件があります。1つは、独自の強みとなる企業文化を持っていることであり、もう1つは強みとなる組織論理を持っていることです。

ホンダの企業文化の核は、本田宗一郎が持っていた品の良いモノづくりセンスです。

藤沢さんが、軽三輪が飛ぶように売れていたとき「つくってくれないか」と依頼したところ「よそうよ」と一蹴した話があります。また「車は、箪笥だの呉服を売るのとは違って、人間の生命に関することだから」という言葉もあります。それよりも何よりも、自動車をつくるのが好きで好きで仕方なかったのです。

ホンダの企業文化の最初は、本田と藤沢の出会いの時に「近視的にものを見ないようにしましょう」と言う同意です。

2人のヒューマニズムとロマンチシズムがホンダの企業文化の中心になっています。

さきに言いましたように、経営は藤沢さんが担当しました。組織づくりを行ったのも藤沢さんです。と言っても「組織は人なり」の考えのもとに、みんなで頭を絞って少しずつ形作られて行きました。その中から先駆的な独自な組織が形成されます。

藤沢さんが、まず考えたのは「技術」のことです。ホンダの強みは「技術」であり、これをいかに現実組織の中に取り込んで行くか。とくに、本田宗一郎亡き後の技術の強みをどのようい維持していくかということです。

このなかで2つの制度が生まれました。ひとつは研究部門の分離、株式会社ホンダ技術研究所の設立です。この組織は文鎮型組織でトップの下に研究者がいて、本社から役員が行っても挨拶をしなくてよいという専門家の研究集団です。「技術」の開発だけに専心するホンダの元本です。

もう1つは専門職制度です。現場の専門家は、一般の職制のもとではそのスキルが埋もれてしまいがちになります。しかし、現場ではエキスパートのもつ能力は必須です。そのため、「エキスパート」が自由に能力を発揮でき「誇り」がもてる仕組みが必要になります。そこで、「エキスパート」の処遇と活躍の環境づくりを明確にした専門職制度が発足しました。

さらに、組織制度で特に有名で特異なのは「役員の大部屋制」です。最近では、優良企業のなかにこの制度を取り入れるところも出始めています。役員が身1つで大部屋役員室に集まってもらおうというのがこの制度です。そこでは、実務から解放され行うのは高所な見地のムダ話です。各分野の高質なエキスパートが行う経営についての話です。そこから「ホンダの将来構想」が生まれ、緊急時には共通認識のもとに変化に対応した対策が即断実行されます。

ホンダは個性と専門は違うものの、上質で同質な2人の人間によって生まれました。この2人は老害が生まれそうになったとき引退し、その上質さが引き継がれました。

戦略経営の「よもやま話」
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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西部邁

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